【第7章 16日目・9/26日】
33.それぞれの使命
国産車Zが運ばれてきた。はたしてサヤカのものなのだろうか。
三人それぞれが任務を遂行する。
(シンイチ談)
午後4時40分。
陸送会社といっていたが、実は個人経営の運送屋だった。一人は背が高く、色黒で野球帽をかぶっている。もう一人は背が低く色白。少し腹がでていて、目つきが悪い。
殴り合いになったら、少なくとも色黒のほうには負けそうだ。その時がきたら谷原親子にすがろう。鍛えておけば良かった、などと今さらながら悔やまれる。
陸送の二人組に、
「杉田です、お世話になります」とにこやかにあいさつし、鍵を受け取る。差し出した私の手が震えていたことは、見破られていないだろうか。
サヤカはさっそくキズのある位置へとまわりこむ。つぎの瞬間、サヤカの表情がぱっと明るくなった。「キズは修理に出せばなおると思うわ。」サヤカの車に間違いはないと確信した様子だ。
よし。
「さっそくですけど、確認させてもらいますね。」
私は書類を受け取り、そのままヒロミに手渡す。
ヒロミはサングラスの奥からめくばせをして、オフィスに消えていった。すぐさま帰ってきて、コピーをひらひらとかざして見せる。
谷原の息子さんが気を利かせて陸送会社の二人と世間話をはじめた。ありがたい。今のうちに、さやかのリモコンが使えるか確かめてみる。まずはサヤカのリモコンを押してみる。開かない。つぎに鍵をドアに差し込む。これもダメだ。鍵は取り替えられている。
いよいよボンネットをあける。陸送のふたりは、おや?というような顔をしたが、かまわない。
まず目に飛び込んできた車台番号を確認する。サヤカの車の番号ではない。それにしても粗雑な仕事だ。番号は刻印されているものの、まっすぐに並んでいない。しかも、刻印の深さが均一ではない。
エンジン番号を確認する。サヤカの車のエンジン番号は【xxxxx5】。記憶した番号を反芻する。
胸が高鳴る。こうした緊張は入学試験の結果発表の時以来だ。
エンジン番号は、ひどく見にくい位置にあった。なにかのパイプがつきだしていて、ちょうどエンジン番号の上に陰を落としている。目をこらす。
最後の文字は「5」か「8」のように見える。しかし、ボンネットの中が暗いこともあって、どちらの数字なのか特定ができない。谷原の親父さんがうしろから懐中電灯を手渡してくれる。それでも「5」か、「8」か、いまいち確信が持てない。
「おやじさん、なんて読めますか、この数字。」
谷原さんは懐中電灯を持ち直し、さらに身を乗り出して、じっと目をこらす。
「5、ですね。」
決まった。サヤカの車だ。ヒロミに例の暗号を出す。
「お金をおろしてきてもらえますか、ヒロミさん」
ヒロミは緊張した様子でうなずく。こちらが心配になるほどだ。
「ちょっとコンビニまでお金をおろしてきますね」
陸送の一人、色白のほうに声をかけ、適当な方向に歩き出した。
ヒロミの手提袋から、ピンク色の携帯電話が取り出された。110番通報だ。
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